「CHRISTMAS STORIES
 -white snow black snow」

互いの町へと向かう二人を乗せた電車はともに走り出した。同じ直線上で、二人はこれから近づいていく。しかし、二人は車内で会うことはない。すれ違ったあとは離れていくだけ。もちろん、ヒカルとユキは、お互いが電車に乗っていることをまったく知らなかった。

(電車に乗ってしまったら、あとはもうどうしようもない。)
そう思いながら、ヒカルはあいている席に座るが、ユキのことが気になり、まったく落ち着かない。車内でできることは、ユキと待ち合わせた駅へ着くまでただ願うだけだった。手に握った袋はしっかりと持ち続けていた。雪で少しよれよれだったが離すことだけはしなかった。

ユキは車内でも窓際でただじっと立ち、ヒカルの無事を祈っていた。

電車が動いている間の1分、2分でも、二人にはとても長い時間のように感じられた。

外の雪はどんどん激しく降り始めていた。あまりの雪に電車は徐々に徐行していった。新たな心配も出てきた。電車が止まらないか…。

ヒカルはただただあせっていた。
(あせっても仕方ない。落ち着け。落ち着け。)
何度もそう言い聞かせるが、気づくと立ち上がり、窓際まで来ていた。

そんなときだった。ついに恐れていたことが起こった。
「お客さまにお知らせします。積雪のため、運転を一時見合わせます。お急ぎのところ、ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。ただ今からドアを手動に切り替えます。・・・。」
突然の車内アナウンスだった。ヒカルは絶望のどん底に叩き落されたかのようだった。
(こんなときのためのケータイだったのに何してんだ、俺は…。)
そしてついに次の駅で、電車は止まってしまった。

ヒカルの乗った電車がその駅に着いたとき、対面のホームにも電車が止まっていた。電車は完全にストップした。
(この中には、駅で一人で待っているユキを見たやつもいるんだろうな…。)

ヒカルは、絶望のふちから這い上がり、外の雪を恨みながら、あたりを見まわしていた。車内のほかの人たちは、あきらめた様子で眠りにつく人、ただボーゼンとする人、電車をあきらめて、手動ドアをあけて駅を出る人、車掌に言い寄る人、さまざまだった。

そのときである。ヒカルは対面のホームの電車の中が妙に気になったのである。窓際で立ちつくしている人の中に、ユキに似た人がいた。
(まさかな。)
と思いながら、周りのことも気にせず、自然に声を出していた。
「ユキィ!」
その女性がヒカルの声に気づいた。
「ヒカル?」
その女性はユキだった。
「あっ、ヒカル。」

二人はお互い、電車の手動ドアをあけ、電車から降り、走り出した。ユキは今にも泣き出しそうに。ヒカルは心からの笑顔で…。

二人は強く、きつく、抱きしめあった。時間も、寒さも忘れて…。大降りの雪の中で…。

そのときの二人には言葉はもういらなかった。言葉はなくても、心が自然に通じ合った瞬間だった。

真っ黒だった雪はいつのまにか、真っ白にうめつくされていた。真っ暗な闇の中にいた二人の心も、真っ白な輝きに包まれていた。

さっきまで袋を握っていたヒカルの腕はユキをしっかりと支えていた。ユキを受け止めた衝撃で、よれよれだった袋は破れ、筆文字の書かれた1枚の色紙が落ちた。
「いつまでも光る雪に包まれて。あたたかな雪とともに明るく光る未来を二人の力で。」
その色紙は、光る雪の中で、しっかり抱きしめ合い、ヒカルとユキを見守っていた。

いつまでも、いつまでも…。







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