「CHRISTMAS STORIES
 -white snow black snow」

真っ黒な雪の中で、ユキは、ただ一人、ヒカルを待っていた。周りの人たちの姿はどんどん変わっていたのに、ユキだけは数十分前から同じ場所で立ち続けていた。

(このまま、事故処理が終わるまで待つか、車を乗り捨て、近くの駅まで走るか…。どうしよう)
ヒカルが考えている間に、すでに待ち合わせの時間を30分すぎている。心ははやるのに体は動かせない。ヒカルの頭の中は、時計の秒針のように、ぐるぐると回っているだけだった。そのとき、やっとパトカーがやってきた。トレーラーの大きさに警察も困り果てていた。後続のほとんどの車は移動することをすでにあきらめていた。だが、ヒカルだけは、あきらめるわけにはいかない。大切な人を待たせていたのだから。

かなり迷ったが、ヒカルは意を固め、車を降り、一人の警官のもとに歩み寄っていった。その警官もヒカルの姿に気づき、瞳を見るなり、ヒカルの言うことがわかったようで、首を一度縦に振った。今日はクリスマスイブ。警官は心の底からヒカルの想いを理解したのだろう。
(こんなドラマみたいなことあるんだなぁ。)
ヒカルはそう思いながら、ユキとの待ち合わせのことを簡単に話し、車のキーを預け、走り出した。目指すは近くの駅。
「おにいちゃん。彼女泣かせたらいかんで。はよ行きぃ。きぃつけてな。」
警官の声を背に受け、ヒカルは街の方へと消えていった。手にはノートほどの大きさの袋を握って…。

その頃、ユキはというと泣き出しそうな心をおさえ、ヒカルを信じながら、一歩も動かず、待ち続けていた。気づくと、一度はあがったはずの雪がまた降り始めていた。しかし、道におちた雪は、真っ黒な雪に吸収されていく。「これはユキの心の不安の大きさなんだ」と言いたげに、黒い雪をさらに作り出していた。

ヒカルの走っている山道は、ところどころ凍っていて、降り出した雪が、さらに走りにくくしている。タクシーどころか、通行する車すらなく、今ヒカルにできることは、駅へと走り続けることだけ。
(ユキに逢わなければ…)という想いだけで、凍えそうな寒さの中で、ヒカルはつりそうな足を必死に動かしていた。

走り続けて40分、やっと駅に着いた。しかし、電車は出たばかり、次の電車まで15分。その時間はもう待つことしかできなかった。ヒカルは充電の切れたケータイを取り出した。祈るような想いで、ヒカルはケータイの電源ボタンを押してみた。ケータイも最後の力を振り絞るように電源が入った。
(よし)
そう思いながらすることはただ一つ。手も勝手に動いていた。ユキへと電話をかけたのだ。
(はやく出てくれ。はやく。はやく。たのむ。)
あせりながらも、つぶやきながら、ユキのケータイを呼び続ける。ユキもヒカルからの電話に気づいた。しかし、手がかじかんでいて、ケータイのボタンが押せない。ユキもあせっている。
「もしもし。ヒカル?どうしたの?」
やっとつながった。
「もしもし。ユキか?」
…ピー。二人を引き裂く音がした。電池の残っていないケータイはすぐにきれたのである。一瞬明るく輝いた二人の心がまた、暗い闇に包まれていた。

ユキの不安はピークに達した。自然に駅の中へと走っていた。ヒカルの町までの切符を買い、改札をくぐる。ちょうど電車がやってきた。無我霧中だったユキが我に帰ったのは電車が発車したあとだった。

ユキの乗った電車が発車したとき、ヒカルも電車に乗り込んでいた。

第3話へつづく。作品の都合上、明日読まれることをおすすめします。




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