「涙のあとに」
第7話
優卯くんとみんなの距離は離れず、縮まらず。そんな日々が数日続いたある日、お母さんが優卯くんに言いました。
「明日、運動会だから、今日は栄養のあるものいっぱい作るからね。一等賞になって、優卯の足が速いところをみんなに見せてやりなさい。」
「うん。でも、負けたらどうしよう。負けちゃったら、カメに負けたことをまた言われるかな。」
「優卯。そのことはもう言っちゃだめよ。勝っても負けてもみんなとの差はそんなにないはずよ。たとえ負けたとしてもみんなそんなこと思わないわよ。でもね。勝ったからっていい気になったらだめよ。いい?優卯の“優”っていう字は“すぐれる”っていう意味のほかに、“やさしい”っていう意味もあるの。優れた子になってほしいっていう願いもあるけど、優しい子に育ってほしいっていう気持ちもこめた名前なの。勝つ子もいれば負ける子もいるの。優卯には負けた子の気持ちもわかる子になってほしいの。覚えててね。」
「わかってるよ。負けたときの悔しさもわかったし、友達の大切さにも気づいたよ。ずっと独りでいたら優しくなれないもん。」
「そうね。大切なことに気づいたわね。そうやって優しさを分け合って支え合える仲間がいることも大切なことなの。優卯が運動会で一等賞になるのはうれしいけど、そういうことをわかってくれたことの方がうれしいな。」
「ぼくは今までたくさんの友達と一緒にいていつも笑ってた。でも、今はずっと独りでいることが多くて、泣くこともあった。独りで泣いててわかったことがあるんだ。泣いたりするから、笑ったりすることができるんだよね?」
優卯くんが最近たくましくなったように感じてやまないお母さんはうれしくて仕方がありません。お母さんの目には涙がにじんでいました。
「お母さん、なんで泣いてるの?」
「えらいわね。やっぱり明日、一等賞とるのよ。」
「変なの。言ってることさっきとちょっと変わってない?」
「子供の活躍を願わない母親はいないの。一生懸命走ってくるのよ。」
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